一度発生した胃捻転を治癒に導くのは難しい。
統計上は周術期死亡率が5割ほど、と言われている。手術をしても半数の犬は助けられないのである。最大の理由は、「来院までの時間」だ。
胃が捻転すると、お腹のまわり(あばらより尻尾側)が膨らんでくる。ただ、見慣れていないと気がつかない方もおられるようだ。それから、嘔吐。吐きたいけれど吐けない状態が続く。
その状況が発生してからは、症状は一気に悪化してゆく。おそらく、数時間以内に取り返しのつかないステージまで進行してしまうだろう。
私たちの施設では、電話連絡を受けるとすべての仕事を中止し、全員で治療するルールにしている。また、麻酔前の処置や、麻酔方法、胃ガスの除去などに長年の経験がある。そのため周術期の死亡率は1割以下であるが、やはり救えないケースもある。
胃捻転を予防できないか。大型犬が多い米国を中心に、予防法の研究が進んできたが、右側の腹壁内側に胃の幽門部(出口に近いところ)を縫い付けることで、予防が可能であることがわかっている。これは10年以上前から行われていることだが、実際に手術を受ける犬は、それほど多くなかったはずだ。理由は、手術侵襲(手術による身体的負担)が大きいからである。
大型犬の胃を固定しようと思うと、腹部を正中から大きく開け、深い位置で組織の剥離や縫合の処置をしなければならない。おそらく20〜30センチ以上の傷になるだろう。
そこで、近年、腹腔鏡下で胃固定を行う方法が取り入れはじめられている。
ところがこの方法が本当に有効なのか、長期的な経過報告はまだ出ていないようだ。
腹腔鏡で通常の手術と同じような精度で胃固定を行うことには、制限がある。
そのため、結紮を必要としない特殊な糸を使って縫合したり、脇腹を4−5cm程度切開し外側から胃を固定する手技(腹腔鏡補助下)が行われている。
私は、開腹手術と同様の方法を、腹腔鏡で行えるように取り組んでいて、5mmから1cmのポート3ヵ所から器具を入れ、胃の漿膜の剥離、腹膜・筋層の分離、全周の縫合を行っている。理論上は、開腹手術と同様の予防効果が期待できるはずである。
ただ、これはちょっと難しいのである。
動物を側臥位(横に寝かせた状態)で手術をするのだが、ちょうど縫合・結紮する場所が「天井」の位置になるからである。
毎日ワンハンド・スリップノットの練習を行っているのは、これがスムーズに行えるためでもある。
でも、小さな傷3ヵ所で完全な胃固定ができるのなら、予防的手術は普及すると思う。多くの施設で取り入れられるよう、術式の定型化が目下の目標。
ただしいこたつのはいりかた
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