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はりねずみ通信

兵庫県姫路市にあるかない動物病院。
椎間板ヘルニアの治療であるPLDDや腹腔鏡手術などの低侵襲治療に力を入れています。
ワイズ
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     今まで数千例の外科手術をしてきた中で、手術が終わった時点で「治らないかもしれない」と思ったことは数えるほどしかない。
    ワイズの手術はその意味で、これからも記憶に残ると思う。

    もう高齢の域に達したドーベルマンのワイズは、誤って異物を食べてしまった。
    かかりつけの動物病院には内視鏡の設備がなかったため、飼い主のIさんはワイズを当院へ連れてきたのだった。
    ワイズと私の関係はPLDD(径皮的レーザー椎間板除圧術)からである。

    「胃の中の異物を内視鏡で取ってほしい」
    という依頼だったので、私は少し軽く考えていたように思う。
    以前PLDDをしたとき、ワイズがクラッシック音楽を聴く、と聞いていたので、
    「入院中に何を流しましょうか?」などと気楽に話していた。

    マーラーの交響曲5番のアダージョを。
    Iさんはそう言った。

    携帯の中にちょうどマーラー交響曲全集が入っていたので、第5番のアダージョをかけて、準備の間ワイズに聴かせてやった。少しでも落ち着くかと思ったのだ。

    ところが麻酔をかけ、内視鏡で胃の中をみてみると、普通でないことがわかった。
    おおかたの綿のような異物を取り除いたあと(これがだいぶ時間がかかった)、幽門部を見てみると、胃の中の異物にヒモ状のものがつながっていて、十二指腸の方向へ流れている。
    糸状異物である。
    腸がアコーディオンのようにたぐり寄せられるため、とても危険な状態だ。

    開腹しなければならない。Iさんに電話して許可を得る。
    この時点で夜の12時を過ぎていた。
    携帯からは、マーラーの交響曲が続けて流れている。

    手術内容の詳しいことは省略する。
    壊死した小腸を20センチ取り、胃と腸にあったすべての異物をとり、腹部を洗浄して閉腹が終わったのは午前3時過ぎだった。

    ちょうど最後の一針を縫い終わったとき、マーラーの交響曲の9番、3楽章が終わった。
    5番のアダージョから9番の3楽章までの時間がかかったわけである。途中は全く耳に入っていなかったが、9番の3楽章が手術に合わせるようにぴったりと終わったことに、少し無震いする。

    なぜなら、マーラーは交響曲9番の3楽章まで書いて、完成させることなく亡くなったからである。

    やれることは、やった。
    そう言い切れるが、糸状の異物に引き寄せられていた小腸全体の血行がとても悪かった。きちんとした血流が戻らないと、縫合した部分が離開することも考えられる。
    高齢で体力も心配だ。
    「治らないかもしれない」
    と思った。

    手術後、Iさんは毎日面会に来られた。
    数日間は安心できない。
    毎日面会に来ても、私が「もう大丈夫ですよ」となかなか言わないので、Iさんは気を揉んでいらしただろう。でも、言えなかった。

    そのワイズが、本日退院する。
    本当は踊り出したいほど嬉しいが、獣医がそれではいけないので、私はきっと普通の表情で返すだろう。

    治って本当によかった。



    どこでも








    | 特選ブログ2011 | 05:17 | comments(14) | trackbacks(0) | - | - |
    見返りをもとめない
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       だれかに親切にしたり、自分の時間を使って協力したとき、次に出会ったとき、
      「あのときは、ありがとうございました。」
      と言われることを期待する。

      先日、ある人が個人的なことで困っていたので、少し手助けをした。
      自分にしては少しがんばったので、ありがとうっていうかな、と思っていたら何も言わない。

      先日も少し書いたが、人間はだれかに褒められることを喜ぶ生き物である。
      他者に対していいことをしたら、褒められたり感謝されたいと思う。
      こういうときには物質的な褒美のようなものは必要なく、気持ちが返ってくればよい。

      だから、考えようによってはタダで相手を喜ばせることができるので、使わないと損である。
      人間のそういう性質を知って対処すれば、得することは多いはずだ。


      そう考える反面、何かいいことをして報酬を得よう(この場合は「ありがとう」と言われること)と期待するのも、むしがよすぎるというものだ。相手のこころ次第なので、それに一喜一憂するのも野暮である。

      たいてい、相手のことを思って何かする自分の気持ちは、本当の意味で利他的とは言えないことが多い。自分がよくみられるように、いい人間だと思われるように、だれかから好かれるように・・、そういう利己的な欲が多かれ少なかれ入っている。

      それならば、いっそ自分のためと割り切って、やったことを満足するにかぎる。



      うちゅうじん!











      | 特選ブログ2011 | 06:02 | comments(5) | trackbacks(0) | - | - |
      だれですか?
      0
         私の叔母が入院している病院へ、見舞いに行った。
        叔母は思ったよりも元気で、安心した。

        ちょうど同じ病院に、ナナちゃんの飼い主さんUさんが入院しているのを聞いていたので、
        ついで、と言ってはなんだが見舞おうと病室をノックした。

        「こんにちは。Uさん、具合はどうですか?」
        「・・・・、どちら様ですか?」
        私が誰なのか、わからないようだった。
        「僕です。動物病院の、金井です。」
        やっとわかったようで、「ああ、すいません。びっくりしました。」という。
        まさか、私が見舞うとは思っていなかったようだ。Uさんは、こちらから言うまでは気がつかなかった。

        その前日、買い物に行ったホームセンターで、飼い主さんのAさんに出会う。
        もう10年来のつきあいなので、
        「あ、Aさん!お買い物ですか?」
        と声をかける。
        Aさんはだいぶ長い間、私をしげしげ眺め、無言でいる。
        「・・僕です。動物病院の。」
        急に笑顔になり、あ、という。
        「先生、そんな格好していたら誰だかわからないよ。」
        私は特別な「いでたち」でいたわけではない。Tシャツとジーンズである。
        そんな格好で、と言われたら、「じゃ、白衣で買い物した方がいいのかな・・」とふと思う。それもおかしい。


        思わぬところに、思わぬ姿でいたら、だれだかわからない。
        考えてみれば、自分だってそういうことはある。



        いすね



        | 特選ブログ2011 | 06:20 | comments(6) | trackbacks(0) | - | - |
        生まれたとき
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           夏になると郷愁を感じるのは、この時期に生まれたからだろう。

          私の母は、私を大阪の病院で産んだ。
          当時はクーラーなどなかったのだろう。病室の窓は開いていた。
          すると窓から、見舞いに来た祖母と1歳7ヶ月の私の姉が、なにか歌いながら来る声が聞こえたそうである。
          その話は何度か聞いたので、夏の日差し、開いた窓、姉と祖母の歌声、という組み合わせが私の生まれたときの情景になっている。

          「何月にうまれたのですか?」
          とよく人に聞く。
          生まれ月が性格にどう影響するかなど、実は関係ない話なのかもしれないが、その人の生まれた日が自分に近かったり、身近な人と同じであると、それだけで親近感がわく気がする。
          (ちなみに、当院の看護師の田中は私とちょうど20歳違いで誕生日が同じ。
          履歴書を見たとき、ろくに話をきかず、心の中ではすでに採用を決めていた。)

          そう、今日は誕生日なのだ。
          いろいろな意味で、いま幸せである。


          まけてばかりではない


















          | 特選ブログ2011 | 05:55 | comments(18) | trackbacks(0) | - | - |
          成果をもとめない
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             憂鬱じゃなければ仕事じゃない(見城徹・藤田晋著、講談社)という本のことを、先日書いた。

            見城さんのことは、山田詠美さんのエッセイなどにも出てくるので知っていた。
            腕利きの編集者、である。
            この本は、見城さんの仕事に対するものの考え方が書かれている。執念と呼べるほどの仕事ぶりには、脱帽するほかない。とても真似はできないが、共感することがとても多かった。


            私が感じたのは、仕事は成果を望んではいけない、ということ。

            編集者の仕事は、作家に作品を書いてもらうことである。けれど、見城さんの作家へのアプローチは、作家や作品に「惚れる」ことからはじまる。
            どうしても書いて欲しい作家に依頼するとき、著作を2冊暗記し作家の前で披露した、というエピソードがあった。
            作家にしてみれば、それほど自分の作品に惚れ込んでいるひとに仕事を任せたい、と思うだろう。

            このときに重要なのは、本当に惚れている、ということである。
            そういう真実がないと、人の心は動かない。見城さんの仕事ぶりは、そのような徹底した人と人との関係を基礎にしている。恋愛にたとえるといいだろう。

            ビジネスといっても人との関係である。それを抜きにして自分の成果を求めるようなありかたは、結果として成功に結びつかない。

            徒労に終わることがあっても、そのようなつながりがあれば、いつかは実を結ぶ。
            成功するのがビジネスだけれど、短期間に得られるような成果は求めてはいけないのだ。


            私も動物病院を運営しなければならない。ビジネスという側面もある。
            運営がうまくいかなければ、普段の治療もままならない。
            ただ、動物病院として成功することが目的ではない。成果は結果として与えられるもので、求めるものではないのだ。

            要するに単純である。
            ただ動物と人を好きになる。
            愛する人や動物が喜ぶような結果を得るように、自分のできる最大限のことをする。
            それに尽きると思う。

            あごのした





            | 特選ブログ2011 | 05:33 | comments(6) | trackbacks(0) | - | - |
            新聞の行方
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               朝食のあと新聞を読もうとしたら、ない。
              新聞受けから取り出したのは覚えている。きっとどこかに置き忘れたのだろう。

              朝起きてからの行動を思い出してみる。
              まず入院の動物をチェックして、動物病院の機械類のスイッチをいれて・・。
              自分が歩いたあとを、もう一度たどっても、新聞は見つからなかった。

              妻に、
              「間違えて猫のトイレに使ったとか?」
              と冷やかされる。
              確かにうちの猫のトイレは朝掃除した。猫砂の下に新聞紙を引くが、新しい新聞を使うはずはない。
              「それはないと思うけど。」

              朝食を食べながら、考える。
              寝ぼけていたわけではないが、いつもの行動は無意識に行っている。いつもと違うことは・・?
              そういえば、新しく来た子猫のトラが珍しく自宅の玄関(1階)にいた。
              普段は3階にいるので、3階に戻してやろうと思い(そうしないと2階にいる犬のピヨに追い回されるので・・)、新聞と一緒に小脇に抱え3階へ。

              子猫を脇に抱えていなければ、普段は新聞を2階の食卓に置く。
              トラと一緒に3階に上がった私は、ついでに猫のトイレを掃除した。
              「あ!」
              朝食の箸が止まる。3階に駆け上がった。

              ・・あろうことか、朝来たばかりの新聞を、私は猫のトイレに使っていた。
              しかも、替えたばかりの砂で、猫たちはもう用を足している。

              かくして私は、読んでいない新聞を猫のトイレに使ってしまったのだった。

              スタッフに言うと、
              「それはさぞ用を足すとき気持ちよかったでしょうね。」

              たぶん、それはないと思う。



              ちょっといどう



              | 特選ブログ2011 | 06:14 | comments(4) | trackbacks(0) | - | - |
              一緒にいること
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                 日曜の朝、早起きして誰もいない場所で本を読んでいた。
                気がつくとまわりに猫が集まっている。私のそばにぴったりと寄り添うもの、窓から景色を眺めるもの、少し離れたところにだらんと寝ているもの、2匹で取っ組み合いをするもの・・。

                声を出してなついてくるわけでもないのに、なぜかゆったりとそばに来て何かしている。
                そうか、そばにいるのがいいのか。
                ただ一緒にいるだけで、それだけで満足しているようである。

                人間が集まるときは、何かを目的とすることが多い。
                仕事でも親睦でも、そうである。何かを話し合う、温泉に行く、映画に行く、買い物に行く。
                きっと目的がある。

                何時間も一緒にいて、一緒にいるだけで満たされるような人とは、一生のうちに何人出会えるのだろうか。


                あつまる
                | 特選ブログ2011 | 05:34 | comments(6) | trackbacks(0) | - | - |
                手術より
                0
                   7/13(水)
                  ウエルシュコルギ、膀胱結石と膀胱腫瘍摘出
                  ミニチュアダックスフント、腰椎6カ所のPLDD(径皮的レーザー椎間板除圧術)
                  ミニチュア・シュナウザー、腰椎3カ所のPLDD
                  院内講演会
                  ラブラドールレトリバー、椎間板ヘルニアのため片側椎弓切除

                  7/14(木)
                  犬、歯石除去

                  7/15(金)
                  シーズー、子宮蓄膿症(初期)・卵巣嚢腫のため腹腔鏡下卵巣子宮摘出術

                  7/16(日)
                  ジャーマンシェパード、会陰部尿道結石のため排尿困難、結石摘出術

                  7/17(月)
                  シーズー、乳腺腫瘍摘出術

                  ワンポイントアドバイス
                  「気圧と病気」
                  台風が近づくと気圧が変化する。そのために体調を悪くする動物も多い。
                  具体的には脳や脊髄疾患、関節疾患、喘息などが挙げられる。
                  気圧の変動は自律神経にも影響がある。実は多くの病気は自律神経との関わりがあるので、さまざまな体調不良の原因に、気圧の変動が関わっている可能性がある。

                  脳や脊髄は「脳脊髄液」という液体の中に浮かんでいる。
                  脳脊髄液は、気圧の変化により膨張したり収縮したりするので、神経は影響を受ける。
                  膨張と収縮の「変化」に体が適応できないと、不調の原因になると思われる。

                  関節疾患や喘息は、周囲の血管の膨張や収縮により影響を受ける。
                  台風などで気圧が下がると「抑えている」血管などの圧力が減るので、浮腫(むくみ)などを誘発するようだ。

                  自律神経との関わりでは、低気圧になると副交感神経が優位になる。それが「だるさ」や「やる気のなさ」などにつながると考えられる。
                  体にある60兆個の細胞は、すべて自律神経(交感神経と副交感神経)の支配を受けている。
                  交感神経は「さあ、やるぞ!がんばるぞ!」というときに働く神経。
                  副交感神経は「のんびりしよう」というときに働く神経。
                  普通は両者のバランスが保たれて、体調が維持される。

                  台風が来て低気圧になると、のんびり系の副交感神経が優位になるので、「がんばる仕事」などには向かないはずだ。副交感神経が優位になると「鬱(うつ)」な気分になることが知られている。

                  台風が去って気圧が上がると、交感神経が優位になる。
                  「晴れたから洗濯しよう!」
                  とやる気がでるのも、交感神経のためだ。
                  交感神経が優位になると、炎症細胞の好中球が増加する。
                  だから、梅雨の晴れ間に盲腸が多い、そうである。
                  動物でも化膿するような病気は、このようなタイミングで起こることが多いようだ。

                  このように気圧と病気は密接な関係にある。


                  ごじゆうにおつかいください






                  | 特選ブログ2011 | 06:10 | comments(3) | trackbacks(0) | - | - |
                  謙虚な気持ち
                  0
                     飼い主さんが
                    「うちの犬が、後ろ足をかばって歩いています。」
                    と来院されたとき、若い獣医師が身体検査をし、
                    「どこも異常はありませんよ。安静にし、少し様子をみましょうか。」
                    と簡単に言うのを聞くと、私は「ちょっとまって」という。

                    私が問題にするのは、そのときの心の持ち方、である。
                    自分が知らない病気が隠れているかもしれない、と思ってほしいのだ。


                    人で「脳脊髄液減少症」という病気がある。
                    交通事故などの後遺症でできた硬膜の傷から、脳脊髄液が漏れ、頭痛やめまいなどを起こす疾患である。
                    当初、この病気が知られていないとき、多くの患者さんが「どこにも異常がないから、病気ではないですよ。」と言われたそうである。
                    ところが、ある医師が、多くの患者さんから丹念に問診を取っていったところ、過去に交通事故や外傷などをおこしているという共通点をみつけた。それでこの病気が「発見」されたのである。

                    獣医師が診て異常がなくても、動物に症状があったり、飼い主さんが「おかしい」と思っているときは、「なにかおかしい」と考えて欲しい。

                    動物は嘘をつかないし、飼い主さんは一緒に暮らしている動物のことを、私たち以上によく知っている。
                    そして、私たちは、なんでも知っているわけではないのだ。


                    だらん





                    | 特選ブログ2011 | 06:22 | comments(6) | trackbacks(0) | - | - |
                    職人気質
                    0
                       職人気質(しょくにんかたぎ)を辞書で引くと、
                      「職人に特有の気質。自分の技能を信じて誇りとし、納得できるまで念入りに仕事をする実直な性質」
                      とある。

                      動物病院の増築や補修などお願いしているK工務店の棟梁は、だいたい私の親と同じ世代。
                      今回、動物病院の一部(待合室の上の外壁が、長年のうちに腐食していたのだ)を補修していただいた。
                      はしごをかけ、屋根に軽々と登り、暑い中2日間かけて作業された。
                      きれいに補修された壁を見上げながら、説明してくださった。
                      「今回腐食していた部分は、次からは大丈夫なように鉄板を被せて補修したからね。季節により結露が生じるかもしれないので、それを防止するシートをしいて・・」

                      大工作業の技術的なことは、よくわからない。
                      ただ、自分の仕事内容を話される口調から、職人さんの実直さが感じられるのである。

                      以前だれかが「獣医は職人じゃなく、科学者だ」と言った。目先の技術ではなく、大局を見よ、という趣旨であろう。
                      私はそのとき、とても違和感を覚えたのだった。

                      私がなりたいのは、職人、である。


                      むかしのらだったから



                      | 特選ブログ2011 | 06:05 | comments(3) | trackbacks(0) | - | - |